柔之術 武芯館

- 体のバランスで身を守る護身術 -

護身術に試合はない?

 

スポーツの世界(柔道やボクシング、格闘技など)では、体の大きさと体重が強さに比例します。なので、体重差によるハンデをなくすために体重別に試合が行われています。

 

体重がある方が有利になる理由は、“勝敗や優劣を決める”という縛り(前提)があるため、攻撃や技に反応(防御)しようとする気持ちが働くこ とが一番の要因だと考えられます。例えば、抵抗する相手を投げようとすると、相手の力を利用できず、腕力や体重にものを言わせて引っこ抜く強引なものにな るといった感じです。

 

試合での対戦相手の気持ち(柔道を例に)は、投げようとする気持ちが7割、投げられまいとする気持ちが3割…あるいは、その逆。積極的に勝とうとしているか、負けないために逃げようとしているかで割合が変わります(正確な数字ではなく、おおまかな雰囲気ですが)。

 

護身術が体格差、体重差、筋力差に関係なく、相手の力を利用して身を守れるというのは、相手の気持ちが10割(何の疑いもなく)攻撃や暴力にあるということがポイントです。

 

当てるという気持ちで殴ってくきますし、何らかの意図があって腕や袖を掴んでくる。そうした相手の気持ち(意図や感情)に逆らわずに、相手の予想していない心の隙間(虚)を捉えることが護身術とスポーツの大きな違いだと思われます。

 

“武道に試合はない(適していない)”というのも、気持ちの割合が変化して、本来使える技が使えなくなるからです。あるいは、抵抗されながら も強引に技を用いることで力に頼った動きになってしまう(体重のある人が有利に)。「試合があった方がより実戦的に稽古ができて良いのでは?」というお話 もありますが、武道の理合(護身術として相手の力を利用する仕組み)が失われる危険の方が大きいです。

 

これは、試合に限ったことではなく、普段の練習の中でも起こりうることです。投げられたくないという気持ちで掴んでいる、何も考えないでただ 腕を握っている…そうした本来ありえない状況で技を掛けようとすると技が決まらないので不安になる。掛からないものを強引に行うことで理合から離れてい く。これは技や動きに慣れてくると起こる“稽古のジレンマ”でもあります。

 

レッスンの中で、“相手の気持ちや動きを感じてから動いてください”とお話しているのも、そうした相手の隙間(虚)に入っていく感覚を養うためです。また、動きだしのきっかけは相手の挙動であり、相手の挙動によってこちらの技(動き)が決定します。

 

“技や動きが先にありき”で動いていますと、自分の動きばかりに気持ちが集中して相手を感じることができません。技や動きに慣れるのではなく、相手を感じることに慣れることがポイントです。それが、“稽古のジレンマ(技が強引にならない)”に陥らない方法でもあります。